こんにちは、あずるです。
このようなニュースが目に入りました。
「アンモニア燃料船」の実用化ガイドラインが国際標準化へ
日本海事協会(ClassNK)の知見を基にした安全要件が、IMO(国際海事機関)へ正式提案。2026年11月の世界初アンモニア輸送船引渡しに向けた法整備が完了。
いよいよ本格的にアンモニアが燃料として使用される時代に突入しています。
基本的には外航船がメインで、内航船に導入されるのは、まだまだ先の話でしょうが、私が現役を退くまでには導入され始めるかもしれません。
ここらで一回、【燃料:「アンモニア」】について、調べてきました!
ぜひC/Rでの話のタネにしてもらえたらと思います。
本記事の情報収集は「GeminiPRO」を用いて実施しています。
ファクトチェックも行ってはいますが、誤情報も混ざっている可能性はあります。
ご了承ください。
はじめに
ニュースでは「エコ」と言うけれど、俺たちは「毒」だと思う
「次世代燃料でアンモニアが使用開始か!?」 海運業界のニュースでは、連日のように「ゼロエミッション」や「脱炭素」という言葉が踊っています。しかし、私たち現場の機関士が抱く本音は、そんな綺麗な言葉ではありません。
「アンモニアって、あの『劇物』だろ? 漏れたら死ぬんじゃないか?」
これが偽らざる本音ではないでしょうか。 確かにアンモニアは強い毒性を持ちます。しかし、結論から言います。過度な心配は不要です。
なぜなら、アンモニア船には、これまでの船にはなかった「最強の盾」が用意されているからです。それは何か? 意外かもしれませんが、「水(清水)」です。
この記事では、きれいごとは抜きにして、現場の機関士が「明日アンモニア船に乗れ」と言われた時に、自分の身を守り、プラントを動かすために必要な「FO/DO船との決定的な違い」と「生存戦略」を徹底解説します。
第1章:機関室の景色はどう変わる?(ハードウェア編)
最大の違いは「捨て場所」がないこと
まず、機関室に入って最初に感じる違いは何でしょうか。実は、メインエンジンそのものは、そこまで大きく変わりません。
1. エンジンは「混焼」が基本
現在主流のMAN B&Wなどのアンモニアエンジンは、ベースは従来の2サイクルディーゼル機関です。 ただし、アンモニアは非常に燃えにくい燃料です。そのため、着火源として「パイロット燃料(重油や軽油)」を少量噴射し、そこにアンモニアを吹き込んで燃やす「混焼」スタイルをとります 。 つまり、従来の燃料清浄機やFOラインの管理業務はなくなりません。
単純に仕事が増える…?
【供給ライン】燃料の流れ(FSS -> エンジン)
ここでの主役は、高圧ポンプと「FVT(燃料バルブトレイン)」です。
Step 1: 燃料タンク (Fuel Tank)
-33°C(大気圧)または常温(加圧)で液化貯蔵。
Step 2: 昇圧と温度調整 (Supply System)
低圧ポンプから高圧ポンプへ送り、約80 barまで昇圧します。
熱交換器 (Heater/Cooler): エンジン入口で約40〜45°Cの液状態になるよう温度調整します(キャビテーション防止と燃焼安定のため)。
Step 3: FVT (Fuel Valve Train)
設置場所: エンジンの手前(機関室内)。
役割: 「最後の砦」。緊急遮断弁(Master Gas Valve)、フィルター(20μm)、そして窒素パージ用の接続口が一体になったブロックです。
メーカー: Eltronic FuelTech社製などが採用されます。
Step 4: エンジン (Engine)
MAN B&Wの場合: 供給された80 barのアンモニアを、シリンダヘッド上のFBIV (Fuel Booster Injection Valve) で油圧を使って600〜700 barに増圧し、炉内に噴射します。
配管: すべて二重管 (Double-walled pipe)。内管と外管の隙間は常に換気され、アンモニア検知器が監視しています。
2. 最後の砦「FVT」
エンジンの手前には、FVT(燃料バルブトレイン) というブロックが設置されます 。 ここには緊急遮断弁や、20μmという細かいフィルター、そして後述する「窒素パージ」用の接続口が集約されています。機関士は当直中、ここの差圧や状態を常に監視することになります 。
3. 【最重要】キャッチタンク(除害設備)
ここが、これまでの船(FO船やLNG船)と決定的に違うポイントです。
従来の船なら、安全弁(逃し弁)が吹いたり、配管内のガスを抜いたりする時は、マストから大気放出(ベント)していました。しかし、毒性のあるアンモニアは、絶対に大気放出できません。
では、余ったガスや漏れたガスはどこへ行くのか? 答えは、「キャッチタンク」という名の『水槽』です 。
- 仕組み: アンモニアは水にものすごく溶けやすい(体積の数百倍)性質があります。
- 構造: タンクの中に水を張っておき、そこにガスを吹き込みます。するとガスは一瞬で水に溶け、「アンモニア水」になります。
- 機関士の仕事: 「タンクの水は足りているか?」「水がアンモニアを吸いすぎて飽和していないか?」を管理し、溜まったアンモニア水を陸揚げ、または中和処理するのが新たなルーチンワークになります 。
第2章:もし漏れたらどうする?(緊急対応編)
「漏れたらどうする?」 これまでの常識は「火災ならボートデッキ(外)へ逃げろ」でしたが、アンモニア船では通用しません。
1. 警報レベルの目安
機関室には大量のセンサーが設置されます。
- 予報(25 ppm): 「どこかで微量が漏れている」。当直者は携帯検知器で元栓を探します 。
- 高警報(300 ppm): 「即時退避」。人間の判断を待たずに、システムが自動で遮断に入ります 。
2. 水のカーテンで叩き落とす
漏洩時、火災用のスプリンクラーとは違う「水幕(Water Curtain)」が作動します 。 これは火を消すためではありません。空中に漂うアンモニアガスを、水シャワーで物理的に叩き落として溶かすための設備です。これによってガスの拡散(ガスプルーム)を防ぎます 。
3. 避難の鉄則:居住区は「要塞(シタデル)」
アンモニアは空気より軽いため、風に乗って広がります。
- 風上へ逃げる: デッキに出る場合は、風向き確認が生死を分けます 。
- 居住区に籠城する: 漏洩警報と共に、居住区のエアコン(外気取り入れ)は遮断され、内部の気圧を高める「陽圧」制御がかかります 。 居住区自体が、ガスを絶対に入れない巨大なシェルターになるのです。
4. 装備:防火服ではなく「宇宙服」
機関室入口には、見慣れない「化学防護服(Chemical Suit)」が配備されます 。完全気密の宇宙服のようなものです。 また、もし皮膚に付着したら、「秒で洗う」のが唯一の解毒法です。そのため、至る所に「緊急シャワー」と「洗眼器」が設置されます 。
第3章:最も緊張する作業「バンカリング」(実務編)
一滴も外に出さない「閉鎖系」オペレーション
機関長や一機士が最も神経を使うのが、燃料補給(バンカリング)です。 「ホースを繋いでバルブ・オープン!」という牧歌的な時代は終わりました。イメージは「化学プラントのドッキング作業」です 。
1. 閉鎖系(Closed Loop)が必須
FOの補油のように、エア抜き管から空気を出すことは厳禁です。
- 液をもらう管(リキッド)
- ガスを返す管(ベーパーリターン)
この2本を同時に接続し、タンク内の圧力を逃がしながら、密閉回路の中で燃料を移送します。
2. ERC(緊急離脱装置)
ホースの中間には、ERCという特殊なカプラーが付いています。 もし船が流されてホースが引っ張られると、弁が瞬時に閉じてから、カプラーが自ら割れて外れます 。これにより、ホースがちぎれて大惨事になるのを物理的に防ぎます。
3. 魔法の言葉「パージ」
作業の最初と最後に流すのは、アンモニアではなく「窒素(N2)」です。
- 接続時
- ホースを繋いだら、まずは窒素で酸素と水分を追い出します 。
- 切り離し時
- ここが最重要です。
- 送油が終わっても、すぐには外せません。ホース内に残ったアンモニアを窒素で完全に押し込み、検知器で「0 ppm」になるまで何度もパージします 。
- 「ホースの中が窒素になるまで絶対に外さない」。これが鉄の掟です。
第4章:私でも乗れるの?(資格・キャリア編)
〜今持っている免状+α〜
「システムは分かったけど、特別な免許がいるの?」という疑問にお答えします。
1. ベースは「IGFコード」
アンモニアは法律上「低引火点燃料」として扱われるため、基本的にはLNG燃料船と同じ「ガス燃料船取扱責任者(IGFコード)」の資格(基本・上乗せ)が必要です 。 これはSTCW条約に基づく既存の資格ですので、海技教育機構などで受講可能です。
2. 追加される「上乗せ訓練」
IGFの講習は「火災・爆発」がメインで、「毒性」の訓練が足りません。 そのため、各船社やメーカー主導で、以下の追加訓練が義務付けられる流れになっています 。
- 毒性体感訓練: 実際に臭いを嗅いで危険度を体に覚え込ませる。
- PPE装着訓練: 化学防護服を短時間で着るドリル。
結論
今すぐ新しい国家試験を受ける必要はありませんが、将来を見据えるならIGFコード(ガス燃料)の資格は取っておいて損はありません。

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暇つぶしもかねて、ぜひ読んでみてください。
まとめ:恐れるな、正しく怖がろう
アンモニア船は、確かに「毒物」を燃料にして走る船です。しかし、今回見てきたように、人間がミスをすることを前提とした多重の防護システムが組まれています。
- 水に溶かす(キャッチタンク・水幕)
- 窒素で洗う(パージ)
- 風上に逃げる(避難)
この3つの原則さえ頭に入っていれば、明日辞令が出ても、あなたはプロの機関士として安全に船を動かすことができます。 新しい技術は常に恐怖を伴いますが、仕組みを知ればそれは「管理可能なリスク」に変わります。この記事が、あなたの未来の乗船への備えとなれば幸いです。
以上、あずるでした!


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